2019年11月19日火曜日

保田武宏『志ん生の昭和』

NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」で森山未來とビートたけしが古今亭志ん生を演じている。本来の主眼である東京オリンピックより、志ん生の半生がおもしろい。僕にとってこのドラマは、志ん生の物語だ。
「いだてん」といえば、大塚の足袋専門店播磨屋の店主役に、不祥事で降板したピエール瀧に代わって三宅弘城が抜擢されている。ある薬品会社のテレビコマーシャル制作の仕事で30年ほど前に会ったことがある。
バブル経済の時代。コンシューマーに名前の知られていない企業を中心にリクルートCMがさかんに制作され、放映された。僕が担当した薬品会社もBtoB(ビジネス・トゥ・ビジネス)という企業対企業のビジネスを展開する広告主だった。若い人たちに支持されるような広告を打ちたい。知名度を高めたい。当時そうしたオーダーは多かった。
ターゲットに近い年齢の出演者になにがしかおもしろいパフォーマンスをさせてみてはどうかという企画が決まり、オーデションを行った。そこにやってきたのが三宅弘城である。明るくはきはきした性格で小柄ではあったが、圧倒的に目立つ存在だった。なにか他の人にはまねのできないことをやって見せてくれないかと注文したところ、その場でバック転をしてみせた(オーデションはもちろん合格し、撮影本番の日もカメラの前で元気いっぱいにバック転を見せてくれた)。
著者は元新聞記者で演芸に造詣が深い。噺家としての志ん生の成長成熟を事実から迫る。好感の持てる一冊ではあるが、そのぶんドラマティックではない。結城昌治の創作を好むか、ノンフィクションとして仕上げられたこちらを好むかは読者の判断によるだろう。
三宅弘城は、それからしばらく忘れていたけれどそのうちときどきテレビドラマで見かけるようになった。若かりし頃、少し緊張しながらもバック転を決めてくれた三宅君を見るにつけ、たいへんなつかしく思うのである。

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