2024年1月20日土曜日

半村良『戦国自衛隊』

斎藤光正監督「戦国自衛隊」が公開されたのが1979年12月。僕が20歳のときである。文庫本と映画がコラボレーションする、いわゆる角川映画のひとつだった。角川映画は角川書店(現KADOKAWA)が映画をベースにしたメディアミックス展開として知られていた。
第一作は市川崑監督「犬神家の一族」(原作横溝正史)だそうだが、第二作の「人間の証明」(佐藤純彌監督)が話題になった。森村誠一の原作もジョー山中が歌った主題歌もヒットした。1977年。僕は高校三年生だった。
五作目にあたる「戦国自衛隊」に興味はそそられたが、劇場でこの映画は観ていない。当時あまり映画を観る習慣がなかったのである(後にテレビで視たが鮮明な記憶は残っていない)。
年が明けて1980年。読書記録によれば、この年の1月にこの本を読んでいる。映画を観る前に原作を読んでおこうと思ったのか、映画を観るお金がなかったから文庫本だけで済ませようと思ったのか。季節的には学年末の試験やレポートなどに追われていた頃だと思う。あと三カ月で大学三年生になる。今となっては遥か彼方の遠い記憶であるが、学生時代ももうじき折り返しかと思うとちょっと憂鬱な心持になる、そんな時期だった。
半村良という作家は当時も今もくわしくは知らない。『戦国自衛隊』から30年経って、『葛飾物語』を読んだ。葛飾の長屋を舞台に昭和の庶民を描いた素敵な小説だった。その後『小説浅草案内』を読む。ここに登場する粋で素朴な浅草っ子がいい。僕にとって、半村良は決してSF作家ではないが、遠い昔に『戦国自衛隊』との出会いがなければ、半村良の描く東京の東側にはお目にかかれなかったかもしれない。つまり『戦国自衛隊』の半村良という記憶があったから、彼の描く下町に出会えた気がするのである。
そういえばパスティーシュの名手清水義範の師匠が半村良だったっけ。清水義範のSFのなかでは『イマジン』が好きだ。