2012年1月31日火曜日

高峰秀子『わたしの渡世日記』


仕事で静岡は清水にいる。
駅を降りると富士が見え、遠くに造船所らしき建物が見える。三保の松原もその辺りだろう。どのみち海の町だ。
高峰秀子の、人気女優としての全盛期を知らない。
昭和30年代に生まれた世代にとって人気女優といえば吉永小百合をはじめとした戦後世代だろう。
とはいうものの昨年あたりから(遅ればせながら)成瀬巳喜男や木下惠介の名作をDVDで観るようになった。去年観た映画のなかで個人的にはナンバーワンと思った「浮雲」、「流れる」はいずれも高峰秀子が出演していた。とりわけ「浮雲」には心打たれた。
木下恵介の本邦初のカラー作品「カルメン故郷に帰る」にも度肝を抜かれた。有吉佐和子原作の「恍惚の人」(ものごころついて以降公開された映画として)はぼくたちの世代にとっては高峰秀子を知る絶好の機会であり、それもかなりのインパクトを与えながらその存在感を示したといえるだろう。
松山善三、高峰秀子の家はまだ麻布にあるが(当初建てた家を建てなおし、こぶりになったそうだが)、彼女が生きてきた鴬谷、大森、成城、麻布今井町あたりには今でも昭和の面影が残っているような気がする。
さて、本書であるが最初の出版から文春文庫を経て、このたび新潮文庫から再デビューした。語り継がれ、読み継がれるべき名著だと思う。
学校教育に恵まれなかった高峰秀子は彼女の人生そのものから人生を学んだのだ。

2012年1月20日金曜日

横関英一『江戸の坂東京の坂』


坂道を意識すると町歩きは楽しくなる。
仕事場のある平河町から、たとえば信濃町まで歩くとすると、貝坂を上り、清水谷坂を下りて、紀尾井坂を上る。喰違門跡を抜け、紀乃国坂を四ツ谷方面に向かい、迎賓館前をまわり込んで、安鎮坂を下りる。鮫河橋あたりを右に折れて、JRのガードをくぐり、出羽坂を上るとじきに信濃町駅である。
出羽坂を上らず若葉町の商店街を進み、戒行寺坂、東福院坂、円通寺坂と魅力的な坂に出会いながら四谷三丁目に出るという選択肢もある。
とまあこんな具合に都心を少し歩くと坂、坂の連続なのである。とりわけ千代田区、港区、文京区、新宿区には坂が多い。都心をはなれると坂は少なくなる。杉並や練馬にも坂はあることはあるが、名前が付いていなかったりする。
そう、坂に名前があることが昔から人が多く住んでいた町の証ともいえるのだ。
そんなわけで以前から坂に興味はあったのだが、たまたま駅前の古書店でこの本を見つけた。著者は一流の坂ヲタクらしい。諸説を吟味検討し、坂名のいわれを根気よく解明していく。訪ねてみたい坂道がまた増えた。
手に入れたのは中公文庫版で『続江戸の坂東京の坂』もあわせて買った。あとで知ったのだが、2冊がまとまってちくま学芸文庫から出ていたそうだ。こんなにちくま通(?)なのに不覚をとってしまった。
さて今日は三べ坂を下りて、山王切通し坂経由で赤坂見附まで出てみようか。はたまた永井坂から袖摺坂、御厨谷坂を靖国神社まで歩いて、富士見坂経由で市ヶ谷に出ようか。いずれにしてもちょっと遠まわりだけれど。

2012年1月3日火曜日

飯田哲也『エネルギー進化論』


謹賀新年。

以前ル・モンド紙で再生可能エネルギーに関する記事を読んだ。
原子力発電に大きく依存しているフランスでは小規模で電力量の調整が利く発電設備が待たれていた。その主力は再生可能エネルギーによるものなのだが、バイオエタノールなど植物由来の燃料は食料危機を招くであるとか、風力発電は野鳥の生態系をこわすなど悲観的な論調だった。などと書くと日ごろル・モンドをよく読んでいる人に思われるかもしれないが、たまたま聴いたラジオフランス語講座で放送していただけだ。
たしかにかつては太陽光発電や風力、潮力、地熱などの発電力はたかが知れていた。秋葉原のパーツショップで見かける太陽光パネルはけっこうな大きさなのに電力量はたったこれだけなのか、と思った記憶がある。何基もの原子力発電所に変わる電力量を生産するなんてことは自然エネルギーでは不可能なのだ、という先入観を植えつけられていた。
ところがどうもそうじゃないらしい。なぜ菅直人が脱原発を唱えるのか、孫正義がエネルギー政策の転換を求めているのか。こうした動きにはそれなりの根拠があったということだ。ぼくたちはただ「知らなかった」のであり、よくない言い方をすれば「知らされなかった」のだ。
ただエネルギーの生産と消費の構造を変えていくことは単に電気のつくり方や流れを変えることではない。もっと根本的な日本のしくみを変えることでもある。そういった意味でこの本は多少数字が苦手だと思う人も電気のことに興味のない人も一読する価値はある。
筑摩書房の人がおすすめの本として紹介していたが、べつに筑摩書房の人じゃなくてもおすすめできる本ではないかと思う。
そうだろ、トヨシマ。

というわけで今年も細々とブログ続けます。よろしくお願いいたします。