2019年11月23日土曜日

岸本佐和子『ひみつのしつもん』

神宮第二球場が取り壊される。主に高校野球の公式戦に使用されることが多かったため、高校球児の聖地などと新聞などに書かれていたが、実際はただのポンコツ野球場である。
人工芝はお隣、神宮球場のお古が敷かれているという。実際にグラウンドに立ってみたことはないけれど、観客席から見る限り、緑色のゴム製シートを貼ってあるだけに見える。そのグリーンもところどころ(というかかなり)剥げてしまって、黒いゴムの下地のようなものが見えている。一般に想像される芝というテクスチャーもほぼなくなっているのか、雨上がりの試合ではあっちですってんころりん、こっちですってんころりんと守備についた選手がすべって転ぶ。最近では雨が降った降らないにかかわらずすべっている選手を見かける。あんまりじゃないか。
さらにこの球場は狭い。日本の国土がそもそも狭いうえ、港区新宿区渋谷区に囲まれ、まさに都会の真ん中に位置しているのだから、狭いのは仕方ない。同じ広さのマンションが買えるかと言われたら、返事に窮する。夏の西東京大会などで使用される郊外の球場は地の利を活かしてか、それなりの広さがある。東東京の球場でも江戸川球場、大田スタジアムなどはまあまあ広い。金持であることと尊敬されることが違うように、球場は広さだけではないとは思うけれど、狭い球場は狭いだけでちょっと残念である。強いて言えば、観客席のシートとその間隔が少し広い。どうでもいいことかもしれないが、これは唯一、神宮第二球場が誇れる美点であろう。
岸本佐和子のエッセーは『なんらかの事情』『ねにもつタイプ』に続いて三冊目。もの忘れだとか子どもの頃の話なんか歳が近いせいかみしみしと沁みてくる。発想や着眼点のユニークさは翻訳家ならでは、という感じがする。あたたかいか寒いかは別にして、懐が深い。
こんなポンコツ野球場、とっとと壊してしまえばいいと思っているのに、なぜだろう、この寂しさは。

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