2014年7月28日月曜日

大岡昇平『ながい旅』

先日カエルの話をした。その続き。
梅雨時だったから仕方のないことだが、雨が続いてカエルが頻繁に姿をあらわすようになった。長女は誰かが迎えに行かないかぎり、玄関まで近寄ろうともしない。家の前に着くと電話をかけてよこす。次女はどちらかといえばカエルがいようがいまいが見ないようにすれば平気だといって普通に帰ってきていたが、再三見かけるようになって何とかならないかと言ってきた。
というわけで捕獲作戦司令官にして直接処理班班長に押しだされるように拝命された次第である。
子どもの頃ならいざ知らず、もうかれこれ50年近くカエルに触れていない。直接捕獲するのは避けたい。ビニールの手袋をすればいいかというとそれも直接触るのとなんら変わりはない。少なくとも精神的には同じだ。カエルに触れることなく捕獲し、安全な場所に逃がすというのが司令官が自らに課した課題である。
実際のところ捕獲はさほど難しくなかった。傘の先で地面を叩いてカエルをおびき出し、バケツに誘い込む。そしてバケツを下げて、近所の池のある公園に放しに行く。任務はあっけなく終了した。
カエルはバケツに捕獲されると最初だけ前脚を伸ばして逃亡をはかろうとする。何も処刑しようというつもりは毛頭ないのだが、なんて潔くないやつなんだという印象を受けた。B29の(またその話になるが)搭乗員処刑に関して上官として全責任を追うと法廷で戦った元第十三方面軍司令官兼東海軍司令官岡田資中将のようになぜ堂々としていられないのだカエルよと思わず声をかけてしまいそうになった。
吉村昭の『遠い日の戦争』が逃亡する戦争犯罪人なら、大岡昇平の『ながい旅』は終戦後法廷でも戦い続けた戦争犯罪人の記録である。その後「雨あがる」の小泉尭史が「明日への遺言」というタイトルで映画化していることも恥ずかしながら最近知った。
カエルを捕獲した翌日、もう一匹、そしてその二日後もう一匹を捕獲、釈放した。三匹もいたのだ。

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