2020年7月8日水曜日

小霜和也『ここらで広告コピーの本当の話をします。』

ミュンヘン五輪の陸上男子100メートルで優勝したのはワレリー・ボルゾフ(ソ連)だった。
このときは有力視されていたアメリカ代表の選手が2次予選で前代未聞の遅刻事件を起こした。もちろんそのことが勝因とは言えない。この種目はローマ大会で東ドイツのアルミン・ハリーを最後に黒人選手の独壇場だった。ボルゾフはどうすれば彼らより先にゴールできるか、それだけを念頭に鍛錬してきた。ベストな状態で100メートルを走り切るのに、いちばん大きな障害は“力み”である。スタートダッシュのよかった選手が前を走る、隣のコースの選手が追いすがってくる。レースはその時々でランナーのフォームやメンタルに影響をおよぼす。いかにリラックスして平常心で、精密機械のように走り切るかが勝敗を左右する。
ボルゾフとそのコーチングスタッフは、ハリーの走りを徹底的に研究し、無駄のないフォームと平静な心の状態をトレーニングによって培った。
という話を昔『スピードの秘密』(ベースボールマガジン社)という本で読んだ。
決して差別的な意味ではなく、黒人選手には白人や他の有色人種にはない天性の運動能力を持っている気がしている。しなやかなバネのような身体能力とでもいおうか。
以前から広告関係の書籍にときどき目を通すようにしている。
ヒットCMを数多くつくっているクリエイティブディレクターやコピーライターの著作が多い。彼らの得てきた知見を若い世代に伝えようという意図がわかる。独自の視点ですぐれた広告をその切り口ごとに整理して、解説を加えている。
素質豊かな天性のクリエイティビティを持ったクリエイターのエッジの立った本もあれば、自らの経験を冷静に顧みて、緻密に理論構築していくタイプもある。
博報堂に在籍し、電通と互角にわたり合った小霜和也のこの本は、広告、そしてコピーライティングの在り方を的確に指摘する。
これ以上の広告の教科書は今のところないといっていいだろう。

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