2016年10月4日火曜日

ジョン・スタインベック『怒りのぶどう』

地球上のありとあらゆる土地は血に染まっている。
アメリカ大陸の歴史はヨーロッパ人による侵略の歴史だった。土着の民は土地を奪われ、富を奪われ、安寧を奪われ、そしておそらくこれが致命的と思えるが、言葉を奪われた。
日本だって同様にアジア大陸を侵略した。が、日本人のすぐれた資質のひとつは、こうした過去の侵略の歴史をふりかえり、反省するところにある(もちろんそうじゃない人もいるけれど、少なくとも僕のまわりにはちゃんとした人が多い)。
侵略というのは必ずしも武力によるとは限らない。
経済は成長を是とする。資本主義には資本主義の正義がある。効率を求め、利潤を追求する。時代に取り残された者たちを駆逐していく。まるで侵略者のように。
アメリカ西海岸、カリフォルニア。ふりそそぐ陽光。どこまでもひろがる果樹園。サーフィンに興じる若者たち、そして彼らを賛美するヒット曲の数々。カリフォルニアはまるでこの世の楽園のように思っていた。
少なくともこの本をはじめて読んだ1984年までは。
生産能力の衰えた土地を買占め、土着の農民を追い出し、大資本は農業の工業化を進める。そこに人は介在しない。利益だけが求められる。
駆逐されたオーキーたちは新天地を求めてカリフォルニアに旅立つ、そこにユートピアがあると信じて。彼らがやっとの思いでたどり着いた楽園は大資本家の楽園だった。農業はすでそこにはなく、耕された大地はまさに工場だった。
スタインベックは資本主義という怪物に家族という人間のいちばん小さな単位を対峙させた。力なきものの力を鼓舞し、巨悪に立ち向かわせた。結果は火を見るより明らかだった。
発表されたのは1939年。やがて第二次世界大戦に参戦するアメリカの武力侵略はすでにここカリフォルニアではじまっていたという見方はやや穿ちすぎか。
もういちど読んでおきたい名作。
30年余の時をへだてて、ようやく再読することができた。

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