2025年6月8日日曜日

お股ニキ『セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論』

はじめてプロ野球を観たのは小学校2年生のとき。明治神宮球場ライトスタンドの芝生の上で100メートル先のバッターボックスに立つ長嶋茂雄を見たのもこの時だ。
僕が野球を観るようになってから長嶋の成績は期待していた以上ではなかった。少なくとも昭和30年代程の大活躍は影を潜めていた。それでも勝負強いバッティングでホームランなら王、打点なら長嶋だった。物足りないと思ったのは打率があまり上がらなかったことによる。ずっとホームラン王であり続けた王にくらべてのことである。
6年生になって、長嶋は首位打者に返り咲く。王はホームランと打点の二冠に輝くが、首位打者長嶋を見ることができたこのシーズンは忘れられない。その後長嶋は3割を打つことなく「わが巨人軍は永久に不滅です」というメッセージを残してバットを置いた。
現役引退後長嶋は監督となり、文化人となる。監督としての長嶋茂雄は必ずしも順風満帆ではなかった。野球の神様がさらなる高みに導くべく課した試練だったかもしれない。
あるインタビューで長嶋は天才ではないと答えている。言われてみれば長嶋はどう考えても努力の人である。野球を愛するがゆえに猛練習に耐え、ライバルたちとの対戦を通じて得た経験を技術として身に付けていった。おそらく長嶋という野球人のなかには野球に関する膨大なデータが蓄積されているに違いない。
今、野球はあらゆる面でデータ化されている。投手の投げるボールの速さのみならず、球種、回転軸、回転数、さらには打球の速さ、飛距離などが瞬時に得られる。この本の著者お股ニキはSNSなどで活躍する野球評論家である。野球経験はほぼない。さまざまなデータ分析と膨大な観戦体験によって熟達した野球の見方を身に付けた。その見識の深さには目を見張る。素人と侮るなかれ、である。こうした見方が多くの野球ファンの野球リテラシーを高めていくのだろう。

長嶋さんのご冥福をお祈り致します。

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