2025年6月21日土曜日

村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』

この本は第1部、第2部が1994年に、第3部が翌年に出版されている。最初に呼んだのは95年だったと思う。一気に読んだ記憶があり、第1部に挟まれていた一枚の紙にその頃の仕事のメモが一枚残されていたからだ。
当時、僕はある鉄道会社のテレビコマーシャルの企画をしていた。その紙切れには割引切符のネーミングやらキャッチフレーズのプロトタイプなど記されていた。それが証拠にはならないだろうけれど、発行の翌年8月に3冊まとめて買って読んだのだろう。
面白かった。村上春樹の小説がついに村上春樹の小説になったと思った。それから数年後にもう一度読んだ記憶がある。というわけで今回読むのは3回目。二十年ほどのブランクがある。例によって内容的にはさして憶えていない。もちろん間宮中尉の話など忘れられない部分はあるとしてもだ。きっかけとなったのは、昨年読んだ短編集『パン屋再襲撃』に収められている「ねじまき鳥と火曜日の女たち」である。
いわゆる村上ワールドは、ある日突然異界に移る。奇妙な人物があらわれ、不思議な事件に巻き込まれる。生活に支障を来たす。この糸のもつれたような複雑多岐がすべてがクライマックスにつながっている。こうした不可思議な連鎖を辿っていくなかで解決の糸口となるようなヒントを探りあてる。そこからたたみかけるように想像力の世界のなかで物語は駆け抜けていく。こうしたパターンが確立されたのがこの作品なのだ。以後、『海辺のカフカ』も『1Q 84』も『騎士団長頃し』もその手には乗らないぞと思いつつ、引き込まれてしまうのが村上ワールドなのだ。
すっかり忘れていたが、この本に牛河が登場する。『1Q 84』で青豆や天吾の周辺を嗅ぎ回る福助頭だ。先日読みかえしたときには牛河が『ねじまき鳥』に登場していることなんかすっかり忘れていた。
再読の楽しみは忘れてしまったことを記憶の層から掘り起こすことなのかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿