2019年12月19日木曜日

池波正太郎『原っぱ』

ICカード乗車券をチャージする。スイカとかパスモといった類のカードに、である。
最近はカードを置いてチャージできる機械も見かける。どうやってお金が転送されるのかじっと見つめているのだけれど、未だそのしくみが解明できない。不思議でしょうがない。「カードを動かさないでください」と女性の声がする。損したら困るから絶対動かそうなんて思わない。
置き型ではないチャージ機では「カードをお入れください」「紙幣をお入れください」と女性の声にしたがって操作するとチャージができる。ICカードを入れて、紙幣を入れる。たとえば1,000円チャージするのに一万円札しかなかったりする。カードと紙幣が機械にするすると吸い込まれ、(機械によってはひったくるように紙幣を吸いとる育ちのよくないやつもいる)おつりとカードが吐き出されるまで空白の時間が生まれる。この瞬間、所持金はゼロだ。不安に襲われる。ICカードとなけなしの一万円札を取り上げられた状態で、そんなことは今までいちどもないのだけれど、突如大停電が起こったらどうすればいいのかと。一文無しの状態でブラックアウトした大都会へほおり出されてしまうのだろうか。チャージするたびに怯える瞬間的な恐怖。
永遠とも思われるような長い長い沈黙の後、「カードをお取りください」「おつりをお取りください」という女性の声が聞こえる。杞憂に終わる。
この本は池波正太郎作品のなかで数少ない現代もの。自伝的小説であるといわれている。そうは言われても時代小説はあまり読まないし、池波正太郎というとグルメエッセイばかり読んでいたから、実をいうとピンとこない。もともと芝居好きでそのキャリアの最初は劇作家だったという。演劇にかかわる登場人物に納得がいく。
池波正太郎が好きだった神田まつやのカレー南蛮そばが食べたくなる。ちょいと地下鉄に乗って行ってみようか。おっとその前にチャージしなくちゃ。

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