2019年12月16日月曜日

中野翠『今夜も落語で眠りたい』

寝る前にYoutTubeで落語を聴いていると以前書いたところ、何人かの友人からこの本をすすめられた。著者は30年ほど前から落語の魅力に取りつかれ、カセットやCDで夜な夜な古典の名作を聴いていたという。聴いていたというより落語に恋をしたといってもいい。作者の落語愛を感じる。
寝る前に落語なんて、同じようなことをする人っているものだ。で、古今亭志ん生の噺を聴いていると眠くなってしまうというのも同様。著者は桂文楽や志ん生推しではあるが、当時まだ現役バリバリだった古今亭志ん朝をいちばんのおすすめとしている。かつて僕がテレビコマーシャルの撮影で出会った頃の志ん朝師匠だ。
長年出版社に勤務している高校時代の友人川口洋次郎(もちろん仮名である)は、この本は名著だと言っていた。川口は今僕が読んでいるような本、たとえば吉村昭だとか獅子文六、司馬遼太郎なんかを中学生高校生時代にほぼ読み終えていた文学少年だった。これも後で知ったことだが、落語にも造詣が深い。今でもときどき寄席に足を運んでいるらしい。どうりで現代国語や日本史が得意だったわけだ。剣道も嗜んでいたが、これは当時から知っている。人は見かけによらない。
川口は同じ著者の、やはり落語にまつわる別のタイトルを編集者として担当していたのに自社の著作ではなく、文藝春秋のこちらを「名著」としてすすめてくれた。深川をルーツに持つ江戸っ子気質の川口洋次郎のことだから、照れ隠しに自分の携わった本をすすめなかったのかもしれない。
新書に滑稽新書と人情新書があるとすれば、この本は人情ものにちがいない。著者の噺家への愛情に満ち満ちている。ただの古典落語の紹介本ではない。とりわけ古今亭志ん朝師匠に関するくだりは読む者の涙を誘う。
遅ればせながら川口の言う「名著」の意味がわかってきた。ときどき出かける図書館でいつも「貸出中」になっていることも頷ける。紛うことなき名著である。

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