2022年8月21日日曜日

西武アキラ(絵)こざきゆう(文)矢野貴寿(企画・原案)『いえのなかのぼやき妖怪ずかん』

20年くらい前、外資の保険会社のテレビCMをつくっていた。
いつものCMプランナーが大阪から来たという若いコピーライターを紹介してくれた。彼の書いたナレーション原稿をもとに企画の打合せをし、いつしかその仕事は終わっていた。手頃な保険料、手厚い保障をタレントが一方的に語り、フリーダイヤルの番号に資料請求を促すCMだった。収録の現場で熱心にモニターを見入っていた(聴き入っていた)コピーライター氏を思い出す。
少し後で僕が主にテレビCMを担当していた製薬会社のラジオCM原稿を彼が書いていたことを知る。広告主の言いたいことを20秒にまとめさえすればいい。つくり手にとっておもしろくない仕事だ。若きコピーライター氏も会社員だし、こういう仕事もこなさなければならないのだろうなあと思っているうちに、彼が宣伝会議賞(というコピーライターの登竜門的な賞がある)を獲ったと聞く。やるなあ、と思っていたら、今度はTCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞を受賞する。そして大阪へ帰って行った。そのわずかな東京勤務時代に僕はこの本の原案を担当した矢野貴寿と出会ったのである。
その後も僕は矢野貴寿の仕事に注目していた。電通のコピーライターとしては当然なのかもしれないが、とにかく勉強熱心なのである。人一倍努力家である彼の書くコピーはけっして奇抜なものではない。人をよく観察していて、ああこれってあるよねといった身近なシーンを見い出しては静かに語る。すぐれた目と耳を持っていることはそのコピーを見ればわかる。
この絵本もそうだ。妖怪は非科学的存在。見えないものの見える化された存在だ。心のなかで何となくもやもやしていた気持ちをさりげなく顕在化する。これって「気づき」をたいせつにする矢野貴寿のコピーライティングの作法だ。
矢野貴寿のなかには企業の課題を見出し、コミュニケーションをなめらかにする妖怪がきっと、棲んでいる。

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