2022年1月11日火曜日

曽布川拓也、山本直人『数学的に話す技術・書く技術』

数学は苦手じゃなかった。過去形で語られるわけであるから、結果的には苦手科目のひとつになったことは否めない。
中学生から高校の一年生くらいまでは得意科目というほどではないにせよ、試験でそこそこ点数を確保できる科目だった。問題を解く手順を見出し、間違えないように計算すれば答が求められる、こんな単純明快な科目が他にあっただろうか。しかも潔い。0℃、1気圧とする、であるとか摩擦は考えないものとする、といった条件が提示されることがない。論理と数字で答えを出せと言っている。何文字以内で主人公の気持ちを書け、なんてことも言わない。
村上春樹の『1Q84』に登場する川奈天吾は予備校の数学講師である。数学の問題を解くだけの人生。なんともシンプルで羨ましい。
実をいうと中学生くらいのときは建築の仕事に携われたらいいなと思っていた。母方の伯父が建築設計士だった。幼いながらも、高校に行って、大学進学を考えるとき、理系、文系という枠組みがあり、今から50年前くらい、男子は理系に進むものとされていた。高校では数I、数II B、数III(理系志望者のみ)の3教科を履修する。高校2年時にまずは数列で挫折した僕は数II Bを早々とあきらめ、いつしか文系志望者になっていた。数列以降、微分・積分も指数関数も対数関数も三角関数もなしくずし的に身につくことはなかった(数Iだけでも受験できる文系学部も少なからずあったので、数II Bで挫折したことはそれほど堪えなかったけれど)。
この本の筆者はふたり。ひとりは数学で挫折し、もうひとりは数学的思考の重要性を説く専門家である。数列も微積分も確率も数学的に突き詰めれば、ビジネスに役立つ。つまり実用的な学問であることがわかる。それを教科書的なプロセスを経ることで、多くの若者たちが挫折を味わうのだそうだ。今さら数学的思考の重要性がわかったところで手遅れだろうが多くの挫折者に励みになる。

0 件のコメント:

コメントを投稿