2005年3月9日水曜日

内田東『ブランド広告』

ぼくがはじめてとあるクライアントのコマーシャルの企画をしたとき、この本の著者である内田東がクリエーティブディレクターだった。短いことばでずばずばっとブリーフィングする人でたいていの打ち合わせにスピード感があった。
コマーシャルは藤本義一がビルの屋上から街を見下ろしながら「わからんねえ、わからんねえ」とつぶやくシンプルなアイデアを出した。コンセプトは「自然でわからないかつら」だった。若干の変更をほどこされたものの企画コンテは採用され、フィルムとなって放映された。
内田東とはそれ以来のつきあいである。
電通時代に内田東は「いい商品がいい広告を生む」とシャープな語り口でマスコミの取材に対応していた。その切れ味がこの本にも活きていると思う。広告表現の表層の暴走をきっぱりと否定する。広告表現の組み立てを重視する。執拗なまでに。事例から事例へのテンポもよく、広告クリエーティブを志す若者たち(おそらくこのあたりがターゲットだと思うが)に飽きさせることがない。媚びてもいない。
産業型社会からポスト産業型社会へ世の中が変化することに応じて広告も発信者主体から生活者主体へ変化していることも明快に語られている。昨今、内田東のいうブランド広告はダイレクトマーケティングに基づく「売る広告」と一線を画そうとしている。とはいえ、広告表現をつくる者にとって生活者インサイトの重要性はどちらにも共通していえる。また、インターネット広告や環境問題、ユニバーサルデザインに関しても言及されているところに広告表現の方向性が示唆されていると思う。
とついつい知人の本ということでバイアスがかかった見方をしてしまうのだが、世の中一般の評判としてはどんなもんだろう。
(2002.9.30)

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