2023年3月13日月曜日

小幡章『CM制作ハンドブック』

1980年代後半まで、テレビコマーシャルはCFと呼ばれ、文字通りフィルムで撮影され、フィルムで仕上げられていた。その後、撮影はフィルム、編集以降仕上げの工程はビデオで行われるようになる。今ではデジタルカメラで撮影し、デジタルデータを加工するプロセスになっている。フィルムで制作されていた時代はほぼ映画製作の現場と変わらなかったのではないか。
もっと探せばあるのだろうけれど、フィルムでTVCMをつくっていた頃の資料は多くない。制作技法は進歩している。昔の制作方法を記述した書物が有用だとも思えないし、映画関係の文献もテクニカルなことより、コンテンツを主題にした方が断然有意義であるし需要も多いだろう。
そんななかでこの本を見つけた。1990年に発行されている。ちょうどフィルム撮影ビデオ仕上げが一般的になってきた時代である。撮影したフィルムはその日のうちに現像所に運び込まれ、翌日現像し、ポジにプリントされたラッシュを試写する。そんな工程も書かれている。なつかしい。ラッシュはOKカットを選び出した後、「パタパタと通称される」編集機でつながれる。ムビオラ35ミリフィルムビューワーのことだ(僕はムビオラをパタパタと呼んだ記憶はないが)。ムビオラの他にも長編映画の編集で使用されるスタインベックという編集機もあった。
0号チェックにもふれらている。0号チェックとは初号プリントをあげる前の段階として編集されたネガフィルムをそのままポジに焼き付けたプリントをベースに色補正を行う作業である。ねらい通りの色調に仕上がっているか、各カットごとの整合性はとれているかといった視点からカメラマンが中心になって以後プリントする際の注意事項、指示事項を決めていく。初号納品前日の厳かな儀式のようだった。
TVCMの世界にも映画の世界にもこうしたプロセスを記憶する人はやがていなくなることだろう。月日の流れとはそういうことだ。

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