2021年10月2日土曜日

恩蔵茂『「FMステーション」とエアチェックの80年代』

大学生になってアルバイトをはじめて、最初に買ったのはカセットデッキだった。大学の生協で値引きされていた。
当時ウォークマンは発売されていなかったけれど、音楽を楽しむ主要メディアはカセットテープだった。うちにあるのはカセットデッキのみ。友人にレコードからカセットにコピーしてもらい、ヘッドホンで聴いていた。そのうちステレオを買い替えるという友人があらわれ、アンプとチューナーが要らなくなったという。あわせて5,000円で譲るという。10代でステレオを買い替えるというのはどんなお育ちだったのか知らないが、その週にアンプ、その次の週にチューナーを大学で受けとった。秋葉原に行って、小ぶりなスピーカーの箱(エンクロージャと呼ぶにはあまりに安価だった)と直径16センチのフルレンジスピーカーをふたつ買って、アンプにつないだ。ウォークマンが世に出る一年前、なんとか世間の若者並みに音楽を楽しめる環境ができた。もちろんラジカセが一台あれば済んだのだろうが。
レコードプレイヤーがなかったので録音する音楽はもっぱらFM放送だった。テレビやラジオの放送を録音することをエアチェックと呼んでいた。この本のタイトルを見たとき、上記のような昔日の思いがよみがえった。
FM情報誌という雑誌があった。
著者はそのなかの「FMステーション」という隔週刊誌の編集にたずさわっていたという。FM局がまだまだ少なかった時代とはいえ、時間に追われるたいへんな仕事だっただろうと想像する。ましてや先行する三誌「FMファン」「週刊FM」「FMレコパル」に大きく後れをとった新規参入。雑誌そのもののアイデンティティを見いだせないままの行き当たりばったり。70年代後半から80年代にかけて、時代はそんな自由さを許してくれていたのかもしれない。
当時、僕が愛読していたのは「FMレコパル」だった。
著者にはちょっと申し訳ない思いで読み終えた。

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