2020年8月26日水曜日

ちばかおり『ハイジが生まれた日』

僕が籍を置く会社は45年前にできた。
創業者たちは1975年の8月にそれまでいたCM制作会社を飛び出して、会社をつくったのだ。西麻布の交差点近く、15平方メートルに満たない狭いマンションの一室。まるでガレージでコンピュータをつくりはじめたみたいなイメージを持つがそれほどドラマチックじゃない、おそらく。
創業者たちのいた会社はTCJ(日本テレビジョン株式会社、1969年に社名変更)という。輸入商社ヤナセの子会社で戦後いちはやくテレビの時代を見越して、CMと番組コンテンツ(アニメーション)の制作をはじめた。日本で最古のテレビコマーシャルは精工舎(現・セイコーホールディングス)の時報CMで、その制作を担当したのがTCJである。僕たちの世代が子どもの頃夢中になったテレビアニメ「鉄人28号」や「エイトマン」もTCJ制作だった。
テレビ(とりわけ民間放送)が急速に普及したことで、CM制作は急成長を遂げた。その一方でテレビアニメーションは採算が悪く、需要があるにもかかわらず、多くの手数がかかったためTCJをはじめとするコンテンツ制作会社のお荷物部署になっていった。
TCJに高橋茂人という人がいて、ヨハンナ・シュピリの『アルプスの少女ハイジ』をテレビアニメにしたいという夢を持っていた。この本『ハイジが生まれた日』の主人公である。TCJがアニメーションの仕事を手放したとき、エイケン(これはサザエさんの制作で知られている)と瑞鷹エンタープライズというアニメーション会社が生まれた。高橋氏は瑞鷹をつくった人である。
アニメーションの世界にGAFAのような巨大企業は存在しない。自分たちのつくりたいものをつくる。多くのスタッフがかかわって、我が強いアーティストたちがぶつかり合う世界だ。日本のアニメーションの歴史は離散集合をくりかえしてきた。なかなか一筋縄ではいかない。
この本は、そんな歴史の一シーンを描いている。

0 件のコメント:

コメントを投稿