2016年7月13日水曜日

吉村昭『ニコライ遭難』


4月、長崎県東彼杵郡波佐見町を訪ねた。考えてみると沖縄には行ったことがあるが、九州に行ったのははじめてである。
波佐見町はひろく海に面した長崎県にあって唯一海岸線を持たない町だという。内陸に位置し、お隣佐賀県の有田市にも近い。そして有田同様やきものの町である。有田焼、伊万里焼ほどの知名度はないかもしれないが、この町の特産は波佐見焼という陶磁器だ。
やきものの中心地は中尾山(なかおやま)という地域。古くから窯が多く、煉瓦造りの煙突がところどころ残っている。ろくろや絵付けなど陶芸体験を楽しみにやってくる観光客も多いという。
中尾山から川棚川の流れに沿うように西に向かうと長野郷という郷にたどり着く。川沿いからさらに西へ上っていくと小さな社がある。水神宮という。その名のとおり、水の神様を祀っている。
社殿に天井画を奉納するという。聞けば、宮司の親戚の同級生で仏教画家の中田恭子さんが九州の復興や子どもたちの未来のために祈りを込めて描いた絵を後世に遺したいということで同人である画柳会のメンバーとこの取組みに参加したのだそうだ。
4月の時点でもちろん天井画は完成していない。それぞれの画家たちが趣向を凝らして、その準備に追われていた。ちょっと興味深く思えたので東京に戻ったら、天井画を描かれている方々にお会いしてみたいと思った。
往復の飛行機のなかで吉村昭の『ニコライ遭難』を読みはじめた。いわゆる大津事件を題材にした力作である。
ニコライ二世が長崎に到着したのが1891年4月。正式に訪日する以外にもお忍びで上陸し、長崎の町を楽しんだという。まったくもってうらやましい話だ(その点僕は2日間の長崎滞在で市内にいたのはほんの2時間ばかり)。
皇太子は有田焼の花瓶や茶器が気に入って出島で買いこんだらしい。どうせなら波佐見にも来ればよかったのに。波佐見焼もさることながら、風景だってとってもいいんだから。

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