2011年4月12日火曜日

新潮社編『江戸東京物語下町篇』


いわゆる下町にさほど思い出はない。
月島に母の叔父が住んでいて、子どもの頃はよく遊びに行った。月島に引越す前は佃に住んでいた。その頃の記憶は微かであるが、ぼくは大叔父を“佃のおじちゃん”と呼んでいた。佃のおじちゃんは佃のおばちゃんと長屋に住み、大工をしていた。子どもがいなかったのでおそらく母をかわいがってくれたのだろう。千葉県千倉町出身だったが、当時月島界隈には千葉出身者が多かったように記憶している。
いちど母と千倉からの帰りに両国から月島まで歩いたことがある。なにか届け物を預かるかしたのだろう。夏だったが、比較的風の涼しい午後だった。今でも夕暮れの相生橋を見るとその日のことを思い出す。
東北や北関東からやってきた人たちが赤羽に住みついたように、千葉から来た人たちは清澄通りに沿って、生きる場所をさがしたのかもしれない。
新潮文庫のこのシリーズは残念ながら絶版となっている。
たしかにこの手の東京本は昨今の散歩ブーム(?)の中、競合が激化してきており、生き残りが難しいジャンルなのかもしれない。『都心篇』、『山の手篇』はたまたま古書店で見つけたが、この『下町篇』は区の図書館で予約した。
上野・浅草、本所・両国、向島、深川、芝・新橋と下町を5地区に分けて散策している。両国(今の東日本橋)に生まれ育ち、ほとんど隅田川の向こうに足を運んだことのない小林信彦が巻末解説。この人選は下町を客観視する上で興味深い。その解説の中で地下鉄はもういらないのではないか、ビルが高すぎるのではないかと警鐘を鳴らす小林信彦は「ものごころついた時から、関東大震災の怖さを吹き込まれた身としては、そろそろかな、と思わぬでもないのだが」と締めくくっている。
それはともかく、こんど小名木川沿いをゆっくり歩いてみたいと思っている。

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