2022年10月16日日曜日

牟田都子『文にあたる』

毎日新聞朝刊一面の目立たないところに「毎日ことば」という連載がある。間違いやすい言葉や表記の仕方が複数ある言葉、あるいは本来の意味のとおりに使われていない言葉などを取り上げている。問いを投げかけ、答えは紙面のどこかにといったクイズ形式である。新聞社の校閲部が担当しているのだろうことはすぐにわかる。
校正は主に文字や文章の誤りを正す作業で校閲とは書かれている文章の内容や意味の誤りを正す作業ということらしい。多少の違いはあるもののどちらも原作者の書いた文章を100%の状態で世の中に晒すという点では同じ作業と言えなくもない。出版社などでは校正の担当者が校閲的な作業も受け持つという。この本の著者もそのようである。
広告の仕事を長くしてきた。文字校正(モジコウ)は日常的な作業だった。とはいえ映像媒体の校正と印刷媒体のそれとでは緊張感が全然違う。テレビCMで表示される文字量と新聞広告やカタログなどではくらべものにならない。印刷されて残るものと時間がたてば消えてなくなる(忘れられてしまう)のと違いは大きい(最近はユーチューブなどに長くアップされているCMも多いが)。
表現物の校正くらい消耗するのが広告主に提出する提案書の校正だ。誤字脱字はもちろんのこと、表記にも気を遣う。クライアントのホームページに掲載されている文章を参照する。そこで「子供」と書かれていたら、「子ども」や「こども」にしない。理系の会社のパンフレットなどによくあるのはJIS規格に則った表記である。「デジタル」が「ディジタル」、「ユーザー」が「ユーザ」だったりする。
校正には正解がないとも言われる。それでいて100%を求められる。そして校正紙が世に出ることはない。この本のおもしろさは校正のテクニカルではなく、校正者の毎日が描かれているところだ。
そうか、校正ってTVCMの絵コンテやグラフィックデザインのサムネイルみたいな仕事なんだ。

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