2022年10月10日月曜日

池田清彦『40歳からは自由に生きる 生物学的に人生を考察する』

井の頭自然文化園で「黒沼真由美展 レースで編む日本のいきもの」が開催されている。こちらで飼育されている日本在来種の動物たちを解剖学的な正確さでレース編みした作品が展示されている。
生物学などとは無縁の人生だったが、生物学者の著書を読んでみる。先月、「大竹まことのゴールデンラジオ」(文化放送)に著者池田清彦が出演していたのをたまたま聴いたのがきっかけである。『40歳からは自由に生きる』とタイトル通りの主張をくりひろげる著者は生物学者。なぜ40歳からかというと最近の研究で人類の自然寿命は38歳くらいなのだそうだ。だから40を過ぎた後の余分な人生は何ものにも縛られることなく、自分で決めた規範に則って生きるべきだと。ただの思いつきであったり、経験談ではない。生物学的な論拠を持っているところがおもしろい。
節制などしてストレスを溜めこむのはよくないだの、がん検診を受けるなだのといったメッセージを発信する。40歳を過ぎると固有名詞が出てこなくなる。このことも記憶のメカニズムに沿って解説してくれる。固有名詞が出てこないのは、さまざまな経験をしてきたことの証であり、経験の量が豊かさを生むとすればその人が豊かな人生を送ってきたがゆえなのである。
人間は前頭連合野の働きで自我が生まれ、未来を見通す能力を持つとしたうえで「昆虫と長年つきあってきた身としては、死の不安や恐怖を覚えることがむしろ幸いに感じられる」とまで言う。「私たちの人生が面白いのは、いつか死ぬことを知っているからであり、(中略)有限の命であればこそ、そして、そのことを知っていて、そのことに恐怖するからこそ、今日楽しくすごしたことが、意義のあるものとなるのだ」と締めくくる。
破天荒な内容にも思われるが、すとんと納得できてしまう不思議な一冊だった。
ひさしぶりに黒沼真由美のレース編みアートを観たあと、吉祥寺駅近くの蕎麦屋で鴨せいろをいただいた。

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