2021年1月5日火曜日

安西水丸『東京エレジー』

正月は例年通り、何をすることもなく過ごした。
2日、テレビでドラマを視ていたら、毎年夏訪れる南房総の風景が映っていた。TBSで放映された『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』いわゆる「逃げ恥」である。
子どもが生まれ、新型コロナウイルス感染拡大のため両親の住む館山に疎開したみくり(新垣結衣)が散歩している。バックに海がひろがり、遠くに家満喜(やまき)冷凍工場が見える。家満喜さんは白浜町乙浜の大きな魚屋で、以前は木村浅廣さんが営んでいた。父の同級生で親友だった。その手前に見えるのはアヴェイル白浜というリゾートマンションだ。その裏手に父の実家がある。みくりが子どもを連れてやってきた公園は塩浦海岸沿いにある。毎年夏休みになると祖父に連れられて泳ぎに行った浜だ。今では標準語っぽく「しおうら」と呼んでいるが、地元に行くと「しょーら」という。だからテレビを視ていて、「あ、しょーらの浜だ、ここ」と思ったわけである。
次にみくりと平匡(星野源)が電話で会話するシーンがある。白浜町と隣接した千倉町の白間津である。みくりは南房千倉大橋という比較的最近できた橋の上にいる(1989年に開通しているが、少なくとも僕の子ども時代にはなかった)。平匡は橋の北側、白間津漁港あたりに車を停めている。千倉大橋の歩道には、ここ白間津で少年時代を過ごしたイラストレーター安西水丸が描いたタイル絵が埋め込まれている。
この本は1982年に青林堂から出ている。その2年前に出版された『青の時代』が千倉時代の回想であるとすれば、本書は中学卒業後上京した時代が舞台になっている。具体的な場所はわかりにくくなっているが、赤坂、護国寺、荒木町、井草、井の頭あたりか。千倉で過ごした少年時代はなりをひそめ、東京人としての安西水丸がこのあたりからはじまる。どことなくよそよそしい目で東京をながめている感じがいい。

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