2020年12月2日水曜日

安西水丸『青の時代』

1977年にブロンズ社から『安西水丸ビックリ漫画館』という本が出版されている。当時彼は漫画雑誌「ガロ」やサブカルチャー雑誌「ビックリハウス」に漫画を載せていた。
『青の時代』は1980年に青林堂から出ている。この80年版を持っていたのだが、どこかにいってしまった。後に買ったのは87年版で装丁が少し違う。70年代から80年にかけての安西水丸を僕は新進気鋭の漫画家だと思っていた。
82年に松任谷由実のアルバム「PEARL PIERCE」が発売される。歌詞カード(ブックレットと呼ぶらしい)に描かれていたイラストレーションを見て、そしてその翌年だったか、書店で見た村上春樹の短編集『中国行きのスロウ・ボート』の表紙イラストレーションで安西水丸はメジャーなイラストレーターになったのだと知る。
その後もシュールな4コマ漫画を描き続けたけれど、この80年代はじめ以降、安西水丸は水丸ワールドを確立し、確固たる地位を築いていく。そういった意味からすると彼の“漫画家”時代の著作、特に南房総千倉で過ごした幼少時代と赤坂丹後町から護国寺の高校に通っていた青春時代が描かれている本書は貴重な史料だ。
千倉町の風景は暗く描かれている。陽光にめぐまれた太平洋の青々とした海原も、5人の姉もみな嫁ぎ、母とふたりで暮らしていた寂しい少年の目からは深い青色だったのだろう。中学卒業と同時に上京し、高校生活をスタートする。慣れない東京で、友だちもいなかった。
四谷荒木町に叔母がいた。長唄の師匠だったというが、くわしいことは知らない。その家か、その近所に同い年の少年がいて、10代の水丸の唯一の友だったとどこかで聞いた気もするが、くわしいことは知らない。
安西水丸のイラストレーションの特徴は、シンプルな線と透明感であるとよく言われる。しかしその絵のずっと奥の方には海の底のような深い青の時代が隠されているような気がしてならない。

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