2020年9月18日金曜日

高橋亜美、早川悟司、大森信也『子どもの未来をあきらめない 施設で育った子どもの自立支援』

山崎豊子『大地の子』を思い出す。
ソ連軍参戦によって虐殺された満蒙開拓団。過酷な体験を経、記憶を失った松本勝男少年は小学校教師陸徳志に助けられる(このときすでに日本語も自分の名前も忘れてしまっていた)。貧しい暮らしではあったが、勝男は一心という名前を与えられ、両親の深い愛情を受けて育つ。生き別れとなって農家に売られた妹のあつ子とは対照的である。
日本は欧米に比べて、里親の割合が少ないという。
家庭の問題(たいていの場合、離婚や虐待)で養育できなくなった児童の多くは児童福祉施設で生活する。実際にそうした児童の数そのものも欧米に比べると少ないらしい。一概に海外比較を取り沙汰するのもどうかと思う。里親など、民間で児童を養育する方が人道的、先進的な印象があるのかどうか知らないが、日本でも里親制度をもっと普及させたいという意向があることはたしかだ。
実際のところ、児童福祉施設で働く人たちはたいへんだ。愛情を注ぐことだけが仕事ではない。朝はやくから夜遅くまでずっと見守りを続け、その成長を手助けしていかなければならないのだ。「おはよう」「行ってらっしゃい」「おかえり」「おやすみ」を言うのは同一職員であるべきだという。職員が長く働ける環境ではないことがうかがえる。それでいて素行があまりよくなく、犯罪や自殺など問題行動が指摘されがちなのも施設の児童であったりする。
疲弊する現場を救い、じゅうぶんな環境を与えられない子どもたちに里親制度はプラスになるという考えが主流なのかもしれない。里親の比率が増えれば、欧米のように児童福祉先進国になれるという印象もあるのかもしれない。この本では、施設か里親という議論より、社会的養護はどうあるべきかを考える著者たちによってまとめられている。勉強になる。
児童養護にたずさわる人に限らず、多くの人の心に陸徳志が住んでいれば、世の中はもっとよくなるんじゃないかと思う。

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