2019年2月14日木曜日

カート・ヴォネガット『ジェイルバード』

昔読んだ本をもういちど読んでみる。
本は同じでも読み手の環境が変わっている。まったく違う印象を得ることもある。それも読書の醍醐味か。
この本は10代のうちに読んでおくべきだ、中学生のうちに読むべきだ、みたいな本がある。少年少女向きであったとしても大人が読んでいけないこともない。むしろ年を取ってから読んだ方が響くことが多いかもしれない。書物は万人に開かれている。
『ジェイルバード』はたしか20代のなかばにいちど読んでいる。四半世紀をとっくに超えての再読になる。
ジェイルバードとは囚人という意味である。ロバート・フェンダーという朝鮮戦争中に反逆罪に問われた終身刑の男が登場する。主人公ではなく、単なる脇役である。支給室(受刑者の私服の受渡しをする部屋)で係員をつとめている。一日中エディット・ピアフのレコードをかけることを許されている。長年聴きつづけたので物悲しい調子のフランス語を流暢にあやつる。
30年前の僕がエディット・ピアフを知っていただろうか。レコードプレイヤーから流れる《ノン、ジュ・ヌ・ルグレット・リアン》を口ずさむことができただろうか。30年前に受け流した一節がぜんぜん違う風景に見えてくる。これを主人公ウォルター・F・スターバックの台詞を借りていえば「長生きは勉強になる」である。
エディット・ピアフを聴くようになったのはいつ頃からだろうか。
2007年にオリヴィエ・ダアン監督「エディット・ピアフ~愛の賛歌~」を観た。マリオン・コティヤールがエディット・ピアフになりきっていたのが印象に残る。エンディングで流れる曲が《ノン、ジュ・ヌ・ルグレット・リアン》、邦題は「水に流して」である。おそらくこの頃、CDを買って、くり返し聴いていたのだと思う。
この一冊を通じて、僕はエディット・ピアフを知らなかった頃の僕に出会うことができた。これからも似たようなことがあるかもしれない。
しばらく再読はやめられない。

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