2014年6月22日日曜日

沢木耕太郎『深夜特急』

日本は島国だから、国境を越えるというイメージをなかなか描きにくい。
飛行機に乗って、目が醒めたら異国。国境の絵を描かせたらイミグレーションのカウンターだった、なんてことも多いのではないだろうか。
2000年にテキサス州サンアントニオから国境を越え、メキシコに渡った。国境は一面の草原でイミグレーションの建物のほか目立ったものはなく、パスポートを見せて、ひとことふたこと英語でのやりとりがあり(もちろんそれは同行者が話しただけで僕は意味もわからず聞いていただけだが)、それから橋を渡ってメキシコに入った。アメリカとメキシコの国境はリオグランデという川が流れているくらいの知識はあったので、おそらくこの橋の下には川が流れているのだろうとは思ったが、橋の下も周囲も丈の長い草に覆われて、川の流れを確認するには至らなかった。いずれにしても国境の川というにはちょっとものさびしい印象だけが残った。
国境を越えてしばらくすると町があらわれ、商店の看板がマルチネス、とかゴンザレスだとか原色っぽい派手な名前に変わり、しかも日に焼けたせいか、埃にまみれたせいか、少し色褪せていた。ここはまぎれもなくメキシコなんだと思ったのはそのときだ。
20代の沢木耕太郎は香港、マカオを皮切りにスペイン、ポルトガル、そしてパリ、ロンドンまで幾多の国境を越えてきた。それも主として陸路で。バスの旅もまんざらでもないじゃないか。
この本が刊行されたのは86年。当時の同僚のコグレ君が夢中になって読んでいた。はやく続きが読みたいと言っていた。僕もずいぶん惹かれはしたが、当時は他に読みたい本があったか、そもそも本を読むゆとりなんかなかったか、読みたいときに読まないと本はその逃げ足をはやくする。
でもまあ、この歳になってはじめて読んだというのもわるくない。こんな本を20代で読んでいたら、いったい今ごろどこにいて何をしているかもわからない。

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