2011年8月13日土曜日

吉田修一『パークライフ』


高校時代は日比谷図書館によく通ったものだ。
とりたてて熱心に勉強したわけではない。その雰囲気を楽しんでいたのだ。
当時、都立図書館としては港区有栖川の中央図書館が開館したばかりで近代的なデザインとその土地柄もあって高校生に人気スポットだった。ものみなすべて成長していく時代にあって“新しいもの”はほぼ無条件に素晴らしかった時代だ。
ぼくと友人のKはそんなトレンドに流されることなく、外観だけは奇抜な三角形のデザインでありながら、机も椅子も古びていて、壁際には暖房用のヒーターが張りめぐらされている古風な環境に身をゆだねた。食堂もいわゆる食堂だった。中央図書館のようなカフェテリアな匂いはなかった。
だいたい夜8時の閉館までいて、日比谷公園のなかを歩いて帰る。Kは町屋に住んでいたので公園の前から地下にもぐって千代田線で帰った。ぼくは有楽町まで歩いて京浜東北線に乗った。
日比谷公園との付き合いはまず図書館からはじまった。
それ以来、都心にいて時間をつぶしたいと思うときは日比谷図書館に行くようになった。読みたい本がないときは縮刷版の古い新聞をながめる。地下の食堂で自販機のコーヒーを飲む。
日比谷図書館は都から千代田区に移管されたそうだ。今は閉鎖されたままで、新しく区の施設として復活する日を待っている。
残念ながら心字池の上から図書館の建物は見えない。

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