南房総の母の実家には漫画がたくさんあった。漫画といっても雑誌や単行本ではなく、雑誌(おそらくは少年倶楽部だと思うが)の別冊付録だ。新書くらいの大きさで100ページもない。一時間もあればじゅうぶん読み切れる。その別冊付録が何百冊とあった。母と8歳違いの叔父のものである。そのなかから祖母に断って一冊もらった。題名はたしかではないが、「若乃花物語」だったと思う。
ちょうどテレビで相撲を見るようになった頃だから昭和45年か46年のことだと思う。若乃花(初代)はすでに二子山親方として協会の要職に就いていた。テレビの中継の合間に昔の名勝負として栃錦対若乃花の相撲は何度か見ていた。一時代を築いた横綱という知識はあった。
戦争で傷痍軍人となった父に代わって冲仲士として家計を支えていたところ巡業で訪れていた大の海に見い出され、二所ノ関部屋に入門する。厳しい稽古に耐え、大関に昇進。初優勝した翌場所に綱取りをかけるが、場所前に不慮の事故で長男を亡くす。それでも初日から白星を重ねたが、13日目高熱を発し、休場を余儀なくされる。と、まあこうしたことは今では調べればすぐにわかることだが小学生の僕はこの別冊付録で知ったのである。
杉山邦博は、1953(昭和28)年にNHKに入局したアナウンサー。翌54年の名古屋場所から大相撲の実況を担当する。最後の実況は1987年の九州場所千秋楽らしいが、その後も相撲ジャーナリストとして活躍している。土俵際で観戦されている姿をテレビで何度も見ている。
杉山アナは子どもの頃から相撲好きで熱心にラジオを聴いていたという。双葉山の全盛期も知っている。いつの日か大相撲の実況をしたいと少年時代から夢みていたようである。僕が相撲を見るようになったのは北の富士と玉の海が横綱に昇進し、大鵬とともに三横綱になった頃。御年95歳の杉山アナは僕が漫画でしか知らない栃若時代の貴重な目撃者だ。
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