従兄がアメリカに住んでいる。もう30年になるだろうか。
母は5人姉妹の四女だった(他に兄と弟がいた)。従兄は長姉の次男にあたる。伯母と母は11歳離れているが、どこがどうというわけではないが雰囲気が似ていた。そういうわけでもないだろうが、従兄はずいぶんと母を慕ってくれた。10年前くらいからだろうか、従兄は暮になるとカードを送ってくれるようになった。「おばさん、元気で長生きしてください」と必ず書き添えて。ご子息が東京の大学に進学した時はわざわざ母を訪ねてくれた。その時撮った写真を母はたいそう気に入っていたようだ。
母が亡くなったことを知らせようと思い、手紙を書いた。南房総に住んでいた従兄とはほぼ面識がなく、歳は3つ違いだが、いっしょに遊んだ記憶もない。夏休みに家を訪ねても野球少年だった従兄は昼間はほとんどいなかった。練習に明け暮れていたのだろう。今、どんな町に住んでいるのかもわからない。アドレスはノースカロライナ州ダーラムとある。地図を見る。大西洋に面した東部の南寄り、北にバージニア州、西にテネシー州、南はサウスカロライナ州、ジョージア州に隣接する。アメリカが独立した時の13州のひとつである。気候も風土もわからず、時候の挨拶に手間取った。
従兄が母に送ってくれた写真のなかに家族そろって撮ったものがあった。息子さんがふたりいて、幼い孫たちも写っている。微笑ましい写真だ。
幼い子ども4人を遺して妻に先立たれた男が主人公の小説。島崎藤村の実生活に近い話なのだろう。子どもたちが少しずつ自立していく。その成長していく姿が微笑ましい。
島崎藤村というと『破戒』とか『夜明け前』といった重い小説ばかり思い浮かべてしまうが、この作品みたいな日常を描いた小説もいい。読んでいて気持ちが穏やかになる。
それにしても紙に字を書く習慣がなくなって久しい。手紙を書くってものすごくエネルギーを要する作業だと改めて思う。

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