2022年9月20日火曜日

堀辰雄『風立ちぬ・美しい村』

今年せっかく軽井沢まで出かける機会があったので、軽井沢らしい小説でも読んでみようと思った。とっさに思い浮かぶのはやはり堀辰雄である。厳密にいえば「風立ちぬ」の舞台が軽井沢だと知ったのは宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」である。そしてそのアニメーション映画に興味を持ったのは堀辰雄的な興味からではなく、吉村昭の『零式戦闘機』からである。
「風立ちぬ」は苦手な小説である。映画にしろ小説にしろ、不治の病にまとわりつかれたストリーは好きじゃないのである。斎藤武市監督の「愛と死をみつめて」なんて見ちゃいられない。かなしくかなしくて仕方ないのである。
それに比べると「美しい村」はよかった。旧軽井沢の、ちょっとしたガイドブックになる。主人公の「私」はつるや旅館に滞在する。旅館の裏手にかつて水車があったという。そのせいでつるや旅館の裏の道は水車の道と呼ばれている。旧軽井沢銀座通りの北西側とほぼ平行している小径である。「私」はつるや旅館の中庭からこの道に出て、何度となく行き来する。
先日、軽井沢を訪ねたとき、旧軽銀座を歩いた。つるや旅館の前も通った。陽が射していたにもかかわらず雨が降ってきてびっくりした。残念ながらその日は水車の道を歩かず、旧軽銀座から雲場池まで歩き、雲場池から離山まで歩いたのである。離山をめざしたのは近衛文麿の別荘を見たかったから。離山に着いた頃には雨は小止みになっていた。
近衛文麿の旧宅といえば、荻窪にある荻外荘が知られている。善福寺川の河岸段丘の上に建つこの建物は現在復元計画がすすめられていて、2024年には公開される見通しであるという。軽井沢の別荘で見たような調度品が再現されていたらうれしい。
せっかくつるや旅館の前まで行って、その中庭も見ず、水車の道も歩かなかったのは、ひとえに僕がこの本を読んでいなかったからである。教養のない人間は時としてこのような失態を演じるのである。

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