2018年11月4日日曜日

寺本潔/澤達大編著『観光教育への招待』

もう30年近く前、タヒチに行った。
青い海とスコールがあるだけで何もない島で一週間ほど何もしないで過ごした。喉が乾いたのでどこかでビールでも飲もうということになった。妻と並んでカウンターに座ってビールを注文する。“ドゥービエール、シルヴプレ”とかなんとか言ったのだろう。ヒナノビール(タヒチで醸造されているビール)が瓶で2本置かれた。
フランス語は少し齧ったことがあった。少し齧ったところで歯ぐきから血が出たのでやめた。それはともかくカウンターの隣に腰かけているおそらく西洋人であろう男性が背の高いグラスに注がれた生ビールを飲んでいる。常夏の島である。気分としては瓶ビールより生ビールだ。妻も生ビールが飲みたいという。やれやれ、どう言ったらいいのだろうと思った瞬間、ふと記憶が呼びさまされた。
生ビールは“アンプレシオン”だ。男性名詞だ。
そこでこんどは“ドゥープレシオン、シルヴプレ”と言うとカウンターの中の男は(おそらくは“ダコ”とかなんとか言ったのだろう)背の高いグラスにサーバからビールを注ぎはじめた。2杯の生ビールが並べられた。
つくづく記憶というのは不思議なものだ。学生の頃、暇にまかせて聴いていたNHKのラジオ講座で生ビールを注文する場面があった。それを思い出したのである、奇跡的に。
日本は観光立国をめざしている。
どこに行っても訪日外国人であふれている。彼らのなかにも日本語の勉強を齧った者もいるだろう。そして歯ぐきから血が出て挫折した者も。そういう観光客たちにおいしい生ビールを注いであげることこそ観光教育のねらいである。
というのは冗談で、自分たちの暮らす地域にある観光資源の魅力や課題を見出していく、そして観光客の立場に立って、観光マップやポスター、ガイドなどをつくり、発表する実践が観光教育であるという。そう考えると普通の社会科や地理よりもたのしい授業になりそうな気がしてくる。

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