2018年10月26日金曜日

鷹匠裕『帝王の誤算』

仕事場が麹町から築地に移ってもうすぐ3年になる。
今さら築地?とも思ったけれど、地下鉄都営浅草線に乗れば京成沿線に出られるし、東京メトロ日比谷線に乗れば、入谷や千住、さらには東武沿線も近い。下町好きにはかなりいい立地だ。少し歩いて隅田川を渡れば、佃や月島もすぐそこだ。麹町みたいな山の手特有のアップダウンはないけれど、それもまた東東京の楽しみでもある。
広告制作に長いこと携わってきた。築地は広告業の遺跡が遺されている。
電通は1967年、提灯行列を連ねて銀座からこの地に移ってきた。現在は本社ビルを汐留に構えているが、長いこと築地を拠点としてきた。本社ビルはまだ解体されることなく遺されている。建築家丹下健三の設計だと聞いている。周辺の建物を見ても、これだけ個性的なビルはあまり見ない。本社ビル移転後も電通は成長を続け、第2ビル、第3ビル…と複数のビルで業務を行っていた。計り知れない猛烈な勢いで成長を遂げていった広告会社であることがそれだけでも察することができる。
この小説は電通の話ではない。フィクションである。舞台は「連広」という広告会社だ。
連広の社員は連広社員手帳(通称連帳)を持っている。RENNOTE(レンノート)ではない。第4代社長押田英世の残した「十の掟」が記載されている。主要広告主はトモダ自動車である。自動車業界第2位のニッシン自動車の扱いもあったが、ライバル会社弘朋社に奪われる。その昔どこかで聞いたような噂話が次から次へと登場する。読んでいてハラハラする。知らない人からすればまったくのフィクションだけれど、少し知っている(それは真実かどうかは別として)人にとっては、である。
登場人物はそれなりの地位の方々である。会ったことはないけれど、名前くらいは知っている。いやいや、これはフィクションだから、架空の人物である。知っているはずがない。それはじゅうじゅうわかっている。
わかってはいるんだけどね。

0 件のコメント:

コメントを投稿