2010年3月7日日曜日

江夏豊『左腕の誇り』

40年前に巨人ファンだった少年にとって、阪神戦ほどやきもきしたことはなかったはずだ。なにせ、村山、バッキー、江夏を打ち崩さなければ勝てないわけだから。
なかでも江夏は当時V9時代の初期の巨人にとって大きな障壁だった。まだ若手でありながら、ふてぶてしいマウンドさばき、度胸のよさ、うなる剛球。まさにセントラル・リーグ屈指の好投手だった。
当時の阪神はその後のバース、掛布、岡田といった重量級の猛虎打線とはほど遠く、遠井、カークランドら、たいして当てにならない中軸と藤田平、吉田義男ら小粒な野手が勝利に最低限必要な得点をあげて勝つストイックなチームだったという印象がある。まだまだ野球が数値化される以前の時代だ。
江夏豊の立ち位置は野球の歴史という年表的世界にはないように思う。その数奇な生い立ち、つくられたサウスポー(もともと右利きだった)、勝ち運にめぐまれなかった高校時代、そしてまさかのトレード劇など単なる一野球選手の生きざまをはるかに凌駕したドラマの数々がその野球人生にある。そしてぼくは江夏の数々のプレーを同時代に見てきた。今思うにこんなに幸せな野球ファン人生はない。
野球史に残る名投手をはるかに超えた“伝説の左腕”。それがぼくにとっての江夏豊なのである。


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