2008年6月18日水曜日

宇田賢吉『電車の運転』

昨今、鉄道が趣味としてクローズアップされているが、昔から親しんできた者にとってはさほど驚くべきことでもない。少なからず男の子であれば、巨大な装置産業である鉄道に一度や二度は憧憬を抱いたことはあるはずで、要はその傾注の仕方の質と量の問題なような気もする。
ぼくは趣味としての鉄道を「模型派」、「写真派」、「時刻表派」に区分している。しかし最近は運転シミュレーションゲームがヒットしたり、タモリ倶楽部や熱中人などテレビ番組の影響もあり、装置として鉄道にも注目が集まっている。
タイトルはそのものずばり、『電車の運転』。朴訥な題名だ。今時分の新書にしてはすさまじく質素だ。しかし「なぜ運転士は電車を動かし止めるのか」とか「誰でもわかる電車入門」みたいな興味本位な題名でないことが、この本の内容を如実に示している。
著者は国鉄時代から40年余にわたって運転士を務めてきた。その経験と教育から得た電車運転の実践を生真面目に語っている。発車から加速、力行、惰行、停止など運転の実際。そして動力(モーター)のしくみ、電力の供給方法から、ノッチ、ブレーキのしくみ、操作方法、さらに分岐器、信号機にいたるまで、運転士に必要な知識はほぼもれなく網羅されているのではないだろうか。

  規則とは、利用者にプラスをもたらすためにある。われわれも営業
  関係の規則はお客様のために柔軟に運用することがベストだと教
  育されてきた。それに対して、運転に関する規則は不便に思えて
  も四角四面に運用することが最終的に無事故につながると叩き込
  まれている。

のだそうだ。筆者が寡黙に日々の業務に取り組み、丹念に日誌を残し、メモをとっていたのだろうと思わせる。
読んでいて気になったのは、専門用語が順序だてて整理されていないことだ。突然難解な用語が出てきて、その解説が後まわしになっている箇所がいくつも見られた。まあこれは著者の問題ではなく、編集者の怠慢だろう。残念なことである。


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