2008年5月25日日曜日

梨木香歩『水辺にて』

高校の後輩のNは大学時代カヌーに没頭していた。川下りがおもしろいらしく、アルバイトをしては日本じゅうの川めぐりをしていた。Nは5年大学に通った。3年までに軍資金をつくって、4年で海外の川下りに挑み、5年で卒業する。彼の所属するサークルの連中は、みなそうして5年間大学に通った。
人はなぜ水に魅せられるのだろう。この本を読んで、ふとNを思い出した。
長女の書棚からシリーズ第三弾は、梨木香歩のエッセーである。
水にまつわる読み物は多い。浅田次郎の『月島慕情』、吉本ばななの「大川端綺譚」、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』も大きくとらえれば水まわりの話だ。
梨木香歩が水辺を散策するのは、やがて自分が還っていくであろう世界を慈しみ、自分の生きている部分的な世界を全体的な世界に繋いでゆくためであるという。それを自らの存在全体で納得したいがために時間をかけて、水とふれあう、ということらしい。
そういえば、大学を卒業したNは、放送局に就職した。最初の赴任地は釧路だった。かつて訪れた湿原の水辺が彼を呼び寄せたのかもしれない。

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