2023年5月21日日曜日

東京コピーライターズクラブ、鈴木隆祐『コピーライターほぼ全史』

1980年代にコピーライターブームがあった。僕は当時、小さな出版社にでも潜りこんで編集者になろうと思っていた。
大手広告会社でグラフィックデザイナーを経て、やはり大手の出版社でエディトリアルデザイナーでもあった叔父からコピーライターをめざせとアドバイスをもらった。そこで通いはじめたコピーライター養成講座。思っていたほどコピーは書けなかった。出される課題は橋にも棒にもかからない。唯一、たまに佳作として選ばれるのはラジオCMの原稿だった。話しことばより書き言葉の方が得意だと思っていたのに。
電波媒体の広告制作を仕事とするようになったのにはそんな経緯がある。
かつて広告制作に携わる人はアートディレクターと呼ばれていた。アートもだいじだけど、メッセージもたいせつだよねってことで昭和30年代、それまでの広告文案家はアメリカから輸入されたコピーライターという単語で呼ばれるようになった。コピー十日会を前身とする東京コピーライターズクラブが誕生したのもこの頃である。
この本の最初の方に登場してくる方々は、僕が30歳くらいの頃の上司の上司である(僕の上司もTCCクラブ賞をかつて受賞している)。それから若い世代が台頭してきて、スターがあらわれ、名作コピーの数々が誕生した。商品の差別化が難しくなってきて、広告も少しずつ変わってきた。その変化をいちはやく捉えてヒットCMをつくりだす若きコピーライターまでこの本は網羅している。
磯島拓矢の項に「北海道国際空港(現AIR DO)」とあった。おそらく校正漏れだろう。著者はジャーナリストであるという。致し方ないところであるが、コピーライターなら広告主名はまず間違えることはない。タイトルにある「ほぼ」とは、こうした不完全なところがありますよ、ということか。
まあ、別に目くじら立てて非難するわけではもちろんない。完璧な文章は完璧な絶望と同じくらい存在しないのだから。

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