2022年4月7日木曜日

太宰治『人間失格』

太宰治を読んでいたのは20歳代だったと思う。消え去った記憶を呼び起こすべく、少しずつ読みなおしている。
JR中央線三鷹駅の西側に朽ちかかった跨線橋がある。朽ち果てているのならともかく、朽ちかかっているというのは見た目にはわかりにくいが、ともかく安全上の観点から補強するか撤去しなければならないらしい。最近はレールの付け替えなどの大工事を深夜に行うこともあれば、土日に列車の運行を止めて作業することもある。鉄道の運行を止めて撤去するとなると大がかりである。どおりで撤去・解体が報道されて以降、具体的な日程は明らかにされていない。
この話がどうして新聞記事になったかというと、この跨線橋が太宰治のお気に入りの場所であったからだ。三鷹市は太宰治とゆかりのある跨線橋を改修して維持できないかと考えていたし、管轄するJR東日本は三鷹市に譲渡するという提案をしていたそうだ。話し合いやさまざまな試算が行われた結果が撤去・解体である。こういった点でも太宰治は面倒くさい人物である。
太宰はこの陸橋のどこが気に入ったのだろう。西側にある電車基地に向かって鉄路が広がっていくその風景を好んだのか、北口側に気に入った小料理屋でも、気前よく金を貸してくれる篤志家でもいたのか(太宰は線路の南側に住んでいたはず)。
先日、せっかくだからこの橋を渡ってみようと思い立ち、三鷹を訪ねた。以前写真で見たよりも所々に補強がなされていて、多少の地震くらいだったびくともしないのでないかと思われるが、古いことは古い。老朽化しているかどうかと訊かれたら僕だってノーと言えない日本人である。
そんなこともあって、『人間失格』を読んでみる。はじめて読んだときとまったく変わることなく、破滅的である。まあ、それはそれでいいのである、今の世の中は。だめなやつはだめなやつの人生があり、破滅的な生き方だってある。たいせつなのは多様性を認め合うことなのだ。

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