2018年4月27日金曜日

阿川弘之『お早く御乗車ねがいます』

駅のみどりの窓口以外で紙の時刻表を手に取ることもなくなった。
スマホやタブレット端末ですぐに検索できてしまうから、分厚い時刻表をめくる手間は要らなくなったのだ。東京駅何時何分発名古屋駅何時何分着、乗り換えに何分かかって目的地到着何時何分とあっという間に必要な情報が手に入る。手に入るというか手のひらの上に表示される。もちろんそれで事足りるわけだから何も文句はない。ただ事足りたとしても物足りない。
時刻表を見てみよう。ご丁寧にもどこの駅を通過するかまでちゃんと記されている。隣の駅に行くのでない限り、列車は必ずどこかの駅を経由する。飛行機とは違う。通過する駅があるということは乗車時間中に空間を移動するということで時刻表は列車の移動をちゃんと記している。列車の進行を追いかけていくと、東海道新幹線なら新丹那トンネルを抜けて三島駅を通過したぞ、そろそろ富士山が見えてくるぞと気持ちが高まってくる。スマホの検索結果にはそういったわくわく感がない。これは紙の時刻表の持つ最大の特徴といえる。具体的な車窓の景色が描かれているわけでもないのに列車移動の時空間が記されていることによって移動の醍醐味を味わうことができるのである。
それは東海道新幹線に乗って富士山を見たことがある人の言い分でしょうと言われるかもしれない。はじめて旅する景色だっていい、見たことのない風景でもいい。時刻表には車窓から眺められる移動感が記されていることに変わりはない。
先だって読んだ『鉄道エッセイコレクション』(ちくま文庫)で阿川弘之という作家が鉄道マニアであったことを知る。時代としては昭和30年前後、獅子文六が『七時間半』で描いた電車特急時代の少し前にあたるだろうか。
阿川弘之の作品はまったく読んでいない。『山本五十六』、『米内光政』など戦記物が多いようだ。せっかく鉄道が取り持ってくれたご縁なのでこんど読んでみることにする。

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