2018年3月20日火曜日

大岡昇平『事件』

町の蕎麦屋で食べる蕎麦と立ち食いそばが同じである必要なまったくないと思っている。
むしろ違った方がいい。行列のできるラーメン屋のラーメンとそっくり同じラーメンを提供する立ち食いラーメン屋があっても流行るのは行列できるラーメン屋だろう。おいしいラーメン屋の味を再現したインスタントラーメンもコンビニエンスストアなどで見かけるが、絶対同じものではないと信じて疑わない。インスタントラーメンはあくまでもインスタントラーメンであり、どうあがきもがいても「生麺のような食感」でしかない。
立ち食いそばも同様で立ち食いそばとしておいしかったらそれでいいのであって、老舗の高級蕎麦屋みたいにうまくなくてかまわないのだ。もりそば一枚に1,000円近い額を払うのと同じ蕎麦を安く手軽に食べようと思うこと自体虫がよすぎる。注文と同時に生麺を茹で、天ぷらを揚げはじめる。その手間はありがたいことだけれどもだからといって過剰な期待は持っていない。立ち食いそばとしておいしかったらそれで満足である。
その点、茹で麺を使用する昔ながらの立ち食いそば屋には長年培われた工夫が見られる。そばづくりを製麺所にアウトソーシングしたぶん、つゆや天ぷらに力を注いでいる。コシだの香りだので若干劣る茹で麺スタイルは町蕎麦屋や老舗蕎麦屋との圧倒的な違いをむしろ武器にして戦っている。やわらかい麺と合っただしやかえし、揚げものなどの豊富な具材、そして薬味の唐辛子などすべて合わさって得も言われぬうまい一杯にができる。その完成度が高ければ高いほど立ち食いそばは他の蕎麦屋の蕎麦とは異なるジャンルの食べものになる。
話が蕎麦だけにちょっとのびてしまった。
裁判をあつかった大岡昇平の作品としては『ながい旅』(小泉尭史監督「明日への遺言」の原作)を読んだことがある。克明に審理の経過が描かれていた。そんなこともあってこの本はぜひ読んでみたいと思っていた一冊だった。

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