2013年11月19日火曜日

田宮俊作『田宮模型の仕事』


昔はティックではなく、チックだった。
ゴチックとかマグネチックとかドラマチックとかエロチックとか。
最近ではもっぱらティックである。たとえばエレキギターではない古典的なギターをアコースティックギターと呼んで区別したりするけれど、今の時代は「アコースティック」であり、「アコースチック」ではない。アコースチックギターなんて全然アコースティックじゃない。
ティックをチックにしてしまうとどことなく古くさくなる。アーティスチックは芸術の匂いが薄れるし、ロジスチックだと荷物の届くのが遅れそうだ。ニヒルスチックはあんまりニヒルじゃないし、アクロバチックは場末のサーカスみたいである。
アメリカのメジャーリーグにアスレチックスという球団がある。古くからアスレチックスと表記されているのであまり違和感がない。フィールドアスレチックなどという場所が日本全国にある。定着した言葉はむしろチックでいい。プラスチックもそうだ。
田宮模型をはじめとする静岡の模型メーカーは古くは木の模型をつくっていた。恵まれた森林資源が背景にあったからだ。しかし時代の主役は木から石油に変わった。絹がナイロンに変わったように。
戦後次々に海を渡ってきたアメリカ製品は日本人のあこがれだった。プラスチックモデルとて例外ではなかった。静岡の木工メーカーはプラモデルへの転向を模索した。本書『田宮模型の仕事』はこのあたりからはじまる。
数ある模型メーカーのなかで田宮模型が頭角をあらわしてくる。そこには卓越した芸術的センスと好奇心、探究心があった。加えて日本人ならではともいえる緻密な目と手が次々に精巧なプラモデルを生んでいく。プラモデルの昭和史というにはスケールの大きな一冊と言っていいだろう。
プラスチックがプラスティックにならないでプラスチックのままでいてくれるのはプラモデルも一役買っているのではないだろうか。
それはともかく、カメラを担いで戦車を撮りにドイツまで行ってみたいったらありゃしない。

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