僕の所属する会社でかつて車や住宅など多くのCMにコピーを書いてくれた方である。何度も打合せに同席した。米国テキサスで撮影とC.G.制作を行う仕事があって、そのときはいっしょにステーキを食べた。
広告の世界ではすぐれたコピーライターやアートディレクターが次から次へと生まれてくるが、コンスタントに日本の広告界を代表するコピーが書ける人間はそう多くはない。岩崎氏は永年にわたって日本代表のコピーライターだった。
多くのスタープレイヤーが華々しい経歴を持っている。野球でいえば甲子園常連校からドラフト上位でプロ入りしたり、学生野球、社会人野球でさらに技術を磨いてプロ入りするものもいる。広告の世界でも大手の広告会社や古くから特徴ある制作会社で鍛えられてスターになったものが多い。ところが岩崎俊一氏はそうではない。同志社を出て、地元関西の広告会社に所属し、その後もっと大きな舞台を夢見て上京してきた(この頃のことを以前飲みながら本人から聞いた気もするがあまり覚えていない)。そして努力に努力を重ねて(たぶんそうだろうと思う)、言葉をさがしまわって、ようやく今の地位を築いたのではないだろうか。そんな気がする。
今年最後に読む長編として吉村昭の『桜田門外ノ変』を選んだ。
根回しに、逃亡に水戸藩士たちが全国を駆けめぐる。幕末期の日本が広い国だったことは『ふぉん・しいほるとの娘』や『長英逃亡』を読んでもわかる。
高野長英もしかりだが、江戸時代末期はタイミングが重要だった。事変を起こすのはもっとはやかったほうがよかったかもしれない。もちろんこのあたりの彦根藩側とのかけひきは微妙な問題を多くはらんでいるのだが。
通夜を終え、仕事の納会に遅れて参加した。帰りの電車の中でようやく下巻を読み終えた。
岩崎俊一氏はどこか遠い場所に言葉をさがしに旅立ったのだろう。
そんな気がしている。