2014年8月5日火曜日

新井静一郎『広告のなかの自伝』

Oさんはある広告会社のCMプランナーである。
いっしょに仕事をするようになったのはここ2~3年のこと。僕みたいに50半ばのCMプランナーとちがって、彼女のアイデアは新鮮で幅広い。九州の芸術系の学部で学んだという。その豊かな才能は東京の美術系大学出身者に勝るとも劣らない。
僕は最初の打合せでOさんの出す案に何度も感服した。彼女は自分なりに有効と思われるメッセージをまず提示し、その表現を模索する。しかも多角的に。
広告クリエーティブに携わるものとしてはこれは別段難しいことではない。ただ彼女の場合、思いつきとか、思い浮かびというレベルではなく、広告制作者がひととおりトライして検証しておかなければいけない方向性を確実にカバーしてくるのだ。
アイデアメーカーとしてのOさんの力が優れているのは言うまでもないが、それ以上に彼女は優れたクリエイティブディレクターに鍛えられてきたことがわかる。才能に恵まれ、しかもそれを鍛錬する場に恵まれた。彼女も素晴らしいが、彼女の周囲で支えてきた先輩たちも素晴らしい。
以前「電通報」の「電通を創った男たち」という連載記事で取り上げられたのが、広告クリエーティブの「水先案内人」新井静一郎だ。
僕たちは生まれたときから広告があって、テレビコマーシャルも流れていたから、別段不思議に思うこともなく広告制作の仕事をしているけれども、広告というものが世の中でさほど必要とされるものではなかった時代があった。広告を経済活動にとって重要な行為として認めさせ、それをビジネスにまで高めていったのは吉田秀雄をはじめとした先駆者たちのおかげである。そして広告宣伝の技術をより高度にしていった技術者がいる。『広告のなかの自伝』は新井静一郎自身の戦前から戦後にいたる広告クリエーティブの発展に貢献してきたその足跡が紹介されている。
Oさんは今いる広告会社を辞め、アニメーションのキャラクター開発にチャレンジするという。
新たなフィールドでどんな自伝を描いていくのだろうか。たのしみである。

0 件のコメント:

コメントを投稿