2026年7月23日木曜日

半村良『雨物語』

新宿に野菊という酒場があった。
1990年頃、CM制作会社の社長Nさんに誘われて行ったのが最初だと思う。Nさんは大手広告会社のコピーライターUさんに連れてきてもらったという。Uさんは上司のOさんに連れてこられた。ややこしい話だが、Oさんはその後会社を移り、当時僕の上司になっていた。
野菊は新宿区役所前の道をゆるやかに下って、ゆるやかに上ったあたりにあった。バッティングセンターの向かい側のビルである。何階にあったかは憶えていないがエレベーターに乗ったことはたしかだ。十何人かが座れるカウンターだけのお店でたいていの場合、ママがひとりで取り仕切っていた。バーというのかスナックというのか、明確な定義はわからないが、ふらっと立ち寄ってお酒を飲むだけだ。どちらでもかまわなかった。当時ママは何歳くらいだったのだろう。もちろん直接年齢を訊いたことなどない。ご存命ならかなりの高齢になっているはず。
たまたま手に取った半村良の小説がなつかしい酒場を思い出させてくれた。物語の舞台である雨女(うめ)というお店はカウンターの他にテーブル席もある。バーテンダーもいる。野菊より少しだけ規模の大きい店のようだ。時代は平成のはじまり。時代的にも僕が頻繁に野菊に立ち寄りはじめた頃である。バブル経済はまだ崩壊していなかった。登場人物の一人ひとりになつかしい時代の匂いを感じる。雨の日の出来事を綴っているせいか、流れる空気に程よい湿気を感じる。
先日読んだ『どぶどろ』も以前読んだ『小説浅草案内』も酒場のシーンが多くあった。まだ読んでいないタイトルにも多くの酒場が散見される。半村はお酒と酒場をこよなく愛した作家だったに違いない。これから半村良と少しづつ酒場めぐりをしたいものだ。忘れてしまった酒場をまた思い出させてくれるかもしれないから。
不安定な天気が続いていた。この本を読み終えた翌日、関東地方も梅雨明けした。

0 件のコメント:

コメントを投稿