これだけはどうしても読んでおきたいと思う本が少なくなってきた。歳をとって欲がなくなってきたせいもある。
もともとこれを読んだらあれを読もうといったプランをつくって読書しているわけではない。基本、行きあたりばったりである。最近では仕事で必要な書物以外はずっと読まないままでいた日本の名作を開いてみたり、昔読んだ小説を読みなおすなどしている。人が一生に読める本は限られている。これまで読んできた本との出会いは偶然の出会いであり、それはそれでよかったのだろう。
誰かが読んでいた本を読んだことも多かった。昔の同僚や先輩にすすめられたり、影響を受けて読んだ本も多い。沢木耕太郎の『深夜特急』もそのひとつ。沢木耕太郎の名前を見ると当時親しく付き合っていたコグレさんを思い出す。今ごろどこで何をしているやら。
この本はノンフィクション作家沢木耕太郎による作家論。
沢木は、資料を丹念に収集し、読み解き、事実を克明に記していく。筋金入りのノンフィクションライターである。本書で取りあげられた作家一人ひとりの作品にすべて目を通したうえでテーマを絞り込んで綴っている。そのせいかフィクションとノンフィクションに関しては厳格な線引きを行っている。吉村昭や瀬戸内寂聴について語るとき、その厳格さは色濃くあらわれる。ノンフィクションを書くという自身の存在理由が明確なぶん、文章は骨太で力強さが感じられる。『深夜特急』以外の作品を知らなかった僕には新鮮な出会いだった。
この作家論は最近文庫化された。単行本にはトルーマン・カポーティやアルベール・カミュについての論考も所収されているという。まだつづきがあると思うと少しうれしい。
この本を読み終えて、檀一雄『小説太宰治』と瀬戸内寂聴『美は乱調にあり』とその続編である『諧調に偽りあり』を読んでみたくなった。結果的に読みたい本がまた増えてしまった。
無計画な読書は当分続きそうだ。