和文通話表は昭和25年に施行された電波法で定められた。通信や電波はそれまでは逓信省、その後電気通信省、郵政省が管轄していたが、「切手のき」「手紙のて」「はがきのは」「無線のむ」「ラジオのら」と通信関係が多い。地名も「上野のう」「大阪のお」「東京のと」などがある。「ろ」は「ローマのろ」である。ロンドンではなくローマなのである。ましてやロシアでもない。「ぬ」は「沼津のぬ」である。「ぬり絵」でも「ぬかみそ」でもよかったかもしれないが、昭和の初期まで交通の要衝だった沼津が採用されている。
なんだかなあと思われるものもいくつかある。「そろばんのそ」「煙草のた」「マッチのま」「三笠のみ」「留守居のる」などは少し時代に取り残されているような気がする。「千鳥のち」も千鳥にピンとこない人が増えてきたと思う。
日本近代文学のはじめの一歩は間違いなく夏目漱石であろう。その漱石の最初の作品が本書である。恥ずかしながら、ついぞ読む機会がないまま、齢を重ねてしまった。突飛なアイデアから生まれたこのデビュー作はなかなか奥行があり、味わい深いものがある。後々の諸作品のためのいいスタートダッシュだったといえよう。
調べてみると和文通話表は古くは大正14年に制定されているようだ。「明石のア」「岩手のイ」「上野のウ」と地名が多く見られる。それに基づくと夏目は「名古屋のナ」「敦賀のツ」「目白のメ」となる。
どうでもいいようなことを書いてしまった。
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