広告の仕事をするようになってはじめて大学でデザインを専攻した人ってたくさんいたんだと知る。テレビコマーシャルの仕事が多かったので、たとえばタイトルを映像に載せる場合もなんとくこんな感じがかっこいいとか、あっちの書体よりこっちの方がコピーの内容としっくりくるねとか、なんの基礎も教養もないスタッフとして接してきた。
20代最後の年に小さな広告会社に移って数年、グラフィック広告にもたずさわるようになった。見よう見まねでサムネイルを描いたり、グラフィックデザイナーが手いっぱいのときは版下をつくったりもした。
ふたたび映像制作会社に戻る。他に人もいないので会社の求人広告や年賀状、名刺などのデザインを頼まれる。気がつけば年賀状など20年以上も続けていた。
デザインの基本は無駄のないビジュアルだと思う。スティーブ・ジョブズはデザインとはもののしくみだと言っていたそうだが、わからないでもない。あれもこれもと、アメ横のお菓子屋さんみたいに詰め込んでみたところで、そのお客さんはよろこぶだろうが、世間にぽんとほおり出されたビジュアルはたいてい無視される。
僕も個人の嗜好としては意味があまり感じられない装飾などを嫌う傾向があるので、著者の言わんとすることはよくわかる。さりとて世のグラフィックデザイナー諸氏は、すべてがワンヘッドライン、ワンビジュアルといったシンプルでかっこいい仕事にめぐまれているわけではない。あれやこれやと意味のない情報を入れろ、文字を大きくしろ、太くしろ、濃くしろと言われ続けている方が圧倒的に多いだろう。
ポリシーの異なるA案、B案、C案を提案したとき、この三つをひとつにした案にしてくれという経営者もいる。デザインのことより、あなたの会社が心配になる。
さて、たいへん勉強になった一冊だが、タイトルに「これならわかる!」の一文を加えたことがたいへん惜しいと思う。