昔読んでおもしろかった本やよくわからなかった本をもういちど読むほうが楽しいような気がしてくるのである。今さら『失われた時を求めて』を読むのなら『ジャン・クリストフ』をもういちど読んでみたい。行ったことのない町を訪ねるより、以前歩いた道をもういちどたどりたくなる、そんな気分。
最近、一冊読み終えると次は何を読もうか、電子書籍のサイトの前でぼおっと考えることが多い。知らないうちに吉村昭、山本周五郎、獅子文六など、いつもの検索ワードを打ち込んでいる。
ときどき仕事で絵を描くけれど、人が絵を描くのを見るのが好きだった。顔の輪郭を描くのに僕は頭のてっぺんからくるりと円を描くけれども、あごから描きはじめる人を見たりするととても新鮮に感じる。円を描くのが右回りなのか、左回りなのかも気になる。同じように人が読む本というものに興味がある。コロナ禍の緊急事態宣言の頃、SNSで「七日間ブックカバーチャレンジ」というイベント(イベントっていうのかな)で静かに盛り上がっていた。心に残った本の表紙を一日一冊、七日間紹介するというもの。知らない本も多かったが、へえ、この人はこんな本を読んでいるのかと楽しみながらながめていた。
読みたい本が見つからないとき、よく読書案内的な本を開いた。思い出せるのは関川夏央『新潮文庫20世紀の100冊』と村上春樹『若い読者のための短編小説案内』である。もっと読んだかも知れない。思い出せないものは思い出せない。
角田光代の小説は少ししか読んでいないけれど、『対岸の彼女』とか『キッドナップ・ツアー』などが記憶に残っている。読書家でもあるらしい。読みたい本をさがしてくれるかもしれないと思って読んでみる。
かくして興味深い本が何冊も見つかった。全部読むかどうかは別にして、大いに初期の目的は果たした。
見知らぬ町の書店に立ち寄ったような気分である。
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