50年近く前、大学生だった。当時、何をして、どんなことを考えていたかくわしく憶えていない。その記憶は小学校中学校時代と同じのように曖昧なままだ。
僕が通った大学は教員養成系の大学ですべてではないがほとんどが卒業後、教職に就く。そういった仲間が多かったせいもあるが将来に関してなかなか広い視野を持つことが難しかった。特にやってみたい職業もなく、自分にどんな資質があるかもわからず、ぼんやりと過ごして、いずれは教員になるのだろうと漠然と考えていた。その一方でみんなと違った生き方をしたいという希望も持っていた。それでずるずると4年生になってしまった。一般の大学にすすんだ高校時代の友人たちは就職活動をスタートさせていた。
森沢明夫は2冊目になる。大学3年生になったシェアハウス仲間の3人の男子とひょんなことから知り合った同学年の女子ふたり。主人公を除くとそれぞれ明確にやりたいことを持ち、得意技を持っている。何の取柄もない主人公マックだけが自らの資質や将来像を思い描くことができないでいる。それでも立ち上げたサークルのホームページをデザインしたりなど器用な側面を持っている。
振り返って、自分の大学時代はそんなこと考えもしなかった。おいしいコーヒーを淹れる喫茶店のマスターやトレーダーをめざすなんてことやアーティストになるとか農家レストランを営みたいとか。小説の登場人物に過ぎないのだが、近頃の大学生はしっかりしているなと思う。いちばんしっかりしていないマックでさえ、多少の技術とそれなりの人柄を持っている。まったくうらやましい大学生活だ。
この青春小説は大学3年生の春から夏を舞台にした5人の男女の物語。主人公マックと書いたが、5人それぞれが主人公といっていい。登場人物ひとりひとりにスポットを当てるのは以前読んだ『大事なことほど小声でささやく』でもそうだった。登場人物を大切にする作家なのかもしれない。
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