2024年6月10日月曜日

村上春樹『1Q84』

人生のなかで村上春樹の作品に出会えたことは大きい。多くの読者がそうであるように村上ワールドに魅せられてきたひとりである。いちど読んだきりではもったいないと思い、長編小説は二度三度と読むようにしてきた。
『海辺のカフカ』を再読したあと、『1Q84』が刊行された。一気に読みほした。つい最近のことように思っていた。気がつくとこの本が出版されてから十数年が経つ。ついこのあいだ読んだ本、観た映画が十年以上前だったことはよくある。クォーツ時計の水晶に誰かが規格以上の電圧をかけたに違いない。
タイトルから伺い知れるようにジョージ・オーウェルの『1984』が着想にかかわっているようだ。残念ながらまだ読んでいない。
ふと思い立って二度目を読む。大筋は憶えてはいるものの、細部の記憶が欠落している。たとえば教団の起こりやリトル・ピープル、空気さなぎあたりは読み流したのだろう。もちろん完璧に流れを記憶していたら再読する意味はない。文章と自らの記憶を照合しながら読みすすめる。
この物語の中心人物ではないが、ふたりのプロフェッショナルが起伏を生み出している。興味深いキャラクターだ。幾多の苦難と経験を血肉に換えてきたセキュリティのプロであるタマルと高度な知性に裏打ちされた鋭利な勘を持つ元弁護士牛河である。慎重すぎるほど慎重に青豆を保護するタマル。そして青豆を追い詰める牛河。思わず固唾を呑んでしまう。そして牛河が見せた一瞬の隙をタマルは見逃さない。皮剥ぎポリスが乗り移ったかのようだ。
僕は『ねじまき鳥クロニクル』に匹敵するくらいの傑作であると思っているが、それでも出版以前に起こったカルト教団の事件や当時から多く報道されていたDV問題など具体的ではないにせよ、重い題材を扱っている。NHKの過剰な集金体制や「福助」頭なども含め編集者はずいぶん気を遣ったことだろう。
初読から十数年。読み手もそれなりに大人になっている。

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