2020年10月24日土曜日

ニコ・ニコルソン/佐藤眞一『マンガ認知症』

歳相応にもの忘れをする。
俳優の名前が出てこない。同じように出てこない名前をよく僕に訊ねる妻に訊く。○○というドラマに出ていた、こんな役をやった、結婚した相手は□□という映画に出ていた、などと周辺情報ばかり集まる。肝心の名前は出てこない。ネットの世の中は便利なもので、関連情報で検索すればすぐにほしい情報に手が届く。しかし、できることならそれは避けたい。意地でも思い出したい。緊急を要する作業ではないからだ。
まだ20代の頃、高校時代の友人の古原誠一と酒を飲んでいた。自分と同級だった男の話題になったが、名前が思い出せないという。僕はたしか、か行ではじまる名前だったような気がすると言ったら、古原は「かあ、かい、かう、かえ…」と「か」に続けて、50音順に読み上げはじめた。そしてついに「こま…」、「こまざわ!」と答にたどり着いた。古原はたしかに努力を厭わない勤勉な友人だったが、こいつみたいなやつが自転車のチェーンキーを勝手に開錠して盗むんだろうなと思った。
思い出せないのは単なる老化であるという。認知症というのはおぼえられないことらしい。たしかに認知機能が低下するわけだから、海馬の奥の方に眠った記憶を呼び覚ますことと、何か新しいことをおぼえることとは違う。なにがしかの経験をする、たとえばごはんを食べるとか、話をするとか。そのことをおぼえられないから、数分後、ごはんは食べたかと訊ねたり、さっき話したことを何度も話す。
先日(といっても猛暑の頃だから真夏のこと)、仕事で認知症と診断された方に会った。今年で78歳になられる。別にどうってことないですよ、とあっけらかんとして人生を楽しんでいるようにみえた。
認知症についてまだまだ知らないことが多い。忘れてしまわないうちに一冊読んでおこうと思った。ともに認知症の家族を持った経験のある漫画家と心理学者の掛け合いのような内容でわかりやすく、切実だ。

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